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「先刻の方は、餘程別嬪でしたネー。」
「エ、先刻の方とは。」
「ソラ、課長さんの令妹とか仰しやツた。」
「ウー誰の事かと思ツたら、……然うですネー、隨分別嬪ですネ。」
「而して、家で視たよりか美しくツてネ。そんだもんだから……ネ……貴君もネ……。」と、眼元と口元に一杯笑ひを溜めて、ヂツと昇の貌を凝視めて、さて、オホヽヽと吹溢した。
「アツ失策ツた、不意を討たれた。ヤ、どうもおそろ感心、手は二本切りかと思ツたら、是れだもの、油斷も隙もなりやしない。」
「それに、彼孃も、オホヽヽ、何だと見えて、お辭儀する度に顏を眞赤にして、オホヽヽヽヽ。」
「トたゝみかけて意地目つけるネ。よろしい、覺えてお出でなさい。」
「だツて、實際の事ですもの。」
「しかし、彼の娘が幾程美しいと云ツたツても、何處かの人にやア……兎ても。」
「アラ、よう御座んすよ。」
「だツて實際の事ですもの。」
「オホヽヽ直ぐ復讐して。」
「眞に、戲談は除けて……。」ト言懸ける折しも、官員風の男が、十許になる女の子の手を引いて來蒐ツて、兩人の容子を不思議さうに、ジロジロ視ながら行過ぎて仕舞ツた。